本革シートの美しさを保つには適切なお手入れが欠かせません。いつまでも新車のような風合いで、長く愛用するためには、本革シートについて正しく理解しておく必要があります。
本革シートの特性を理解していないまま間違ったお手入れをして、リペア不可能なレベルまで風合いを崩してしまったケースを何度も目の当たりにしてきました。
取り返しのつかない事態にならないためにも本記事を最後までお読みいただき、本革シートを美しく保つための方法を学びましょう。
本革シートができるまでの工程
本革シートのお手入れ方法を解説する前に「本革シートの特性」について理解しておく必要があります。
なぜなら誤った情報を参考にして、誤ったお手入れをしてしまうケースが後を立たないからです。
「本革シートの特性」について理解しておけば誤った情報に振り回されることなく、正しい知識でいつまでも美しい状態を保つことができます。
早速本題に入りますと、本革シートには「柔軟性」と「耐久性」の二つが求められます。シートに座る時に、柔軟性がなければ座り心地が悪くなり、耐久性がなければすぐにひび割れたり擦れてしまうからです。
一般的なグレードの自動車用レザーの場合
柔軟性と耐久性を両立させるため、以下のような製造工程を経て本革シートは作られます。
皮から革になり、製品になるにはとても多くの工程が必要です。今回は「革」になってからの工程をかなり簡略化して書きます。
鞣し~薄く切断~再鞣し~染色~加脂後
1. 乾燥作業後、革は硬くなるのでバイブレーションステーキングという機械で乾燥した革を叩いてもみほぐし、柔らかくします。
2. シートやステアリングのカラーに応じて塗装を行います。この塗装で、革の銀面に塗膜(樹脂)が形成されます。なぜ銀面に塗装を行って塗膜(樹脂)を作るのかと言えば、耐久性をつけるためです。この塗装(樹脂)を行わないと、ひび割れ、変色、表面剥離、たるみなど、耐久性に欠けてしまいます。
3. 銀面に傷がある革は隠すためにシボ模様を加圧プレス機で付けます。
4. 最後に裁断、縫製をして本革製品として車に利用されます。
(細かい話をすれば製品になる為の仕上げ方は沢山ありますが今回は割愛します。)
このように製造工程で「もみほぐし」と「塗装」をすることで柔軟性と耐久性の2つの特性を両立させています。
塗膜(樹脂)には何も浸透しない
ここからが重要なことですが、塗料によって作られた塗膜(樹脂)には一般的に販売されている革用の保護オイルや保護クリームを塗っても革には浸透しません。
塗膜(樹脂)が壁となって、革への浸透を防ぐからです。
また、革は湿度の変化に応じて水分を吸収したり、放出したりする特徴があり、そのことを「呼吸する」と表現されることもありますが、同様に塗膜(樹脂)があるため水分の吸収や放出も起こりません。つまり本革シートは呼吸もしません。
今後、商品の説明欄や営業マンに「このクリームは革に浸透して艶が出ます」「このオイルを塗ることで保湿ができてひび割れ防止になります」などと言われたら、塗膜(樹脂)のことを思い出してください。
繰り返しになりますが塗膜(樹脂)があるため、革用の保護オイルや保護クリームを塗っても革には浸透しません。
では、塗膜(樹脂)にオイルやクリームなどの保護剤を塗ると一体何が起こるのか?
保護剤に含まれる油分が革のシボやシワに入り、紫外線や熱で酸化し、時間が経過するとその影響で、ひび割れを引き起こします。カビも生えます。
しかも油は汚れが付きやすく、本革シートにほこりやゴミが付着しやすくなります。ヘアワックスを塗ったベタベタした髪にほこりやゴミがつきやすいのと同じです。
ですから本革シートにクリームやオイルなどの保護剤を塗ること自体が無駄であり、むしろ革シートの状態を悪くするので百害あって一理なし、ということになります。
艶出し保護剤が塗られた本革シートには大きなひびが入る
過去に、本革シートに大きなひびが入ってしまったお客様がいらっしゃいました。
詳しく話を聞いてみると、保護剤という艶出し剤を塗り続け、屋外駐車で直射日光が当たり続けたとのことです。ひび割れの原因は恐らく艶出し剤に含まれる油分が酸化と直射日光で塗膜(樹脂)に影響を与えたのでしょう。(断定はできませんが、、)
写真のように大きく裂けてしまうときれいにリペアができません。
オーナー様からは「とりあえず、ひびが埋まれば良い」というオーダーでしたので施工させていただきました。
愛車のレザーを保護する為に良かれと思って塗った艶出し保護剤が、逆にレザーをダメにしてしまうケースがよくあるのです。
なお、当店ではレザーシートのリペアを行っております。当店ではパテ(充填剤)を一切使わずに時間を掛けて塗料を薄塗りで何度も回数を重ねて塗りひびを埋め、自然な感じにしわを残し、オリジナルな風合いを崩さす仕上げます。
レザーシートリペアはこちら
メーカー側も知らずに販売している可能性も
過去にある商社の方が新商品の営業に来られました。
商品説明部分には
“独自にブレンドしたクリーム状のコンディショナーはレザーを経年劣化やひび割れから守り乾燥した革に成分が浸透し、潤いを与え本来のしなやかな状態を蘇らせ、保湿効果により深みのある色を保ちます。”
と記載されてました。
成分表には
○○オイル(ビタミンE配合)、ヤシ油、、オ○○○オイル、○○ナバ、アロエ○○○、防腐剤、水・・・・
などと書かれております。
にも関わらず注意書きには「塗装したシートには使用出来ません。」と記載がありました。つまり現代の全ての車のレザーシートに使用できないということになります・・・。
このような商品を目にしたときに知識がなければ「なんだか色んな成分が入っていて、効果がありそうだな」と思ってしまいますよね。
ですが先ほども書いたように現代の自動車のレザーシートには全て塗料(樹脂)が塗ってあるので、レザーシートに何らかの成分が浸透することはあり得ません。(酸化した油が影響してレザーシートを劣化させることはありますが)
来社した営業マンの方も自社商品が間違ったことを伝えているとは思いもしないでしょうから、悪意なく間違った説明をしてしまい、誤った情報が出回ります。
当時のエピソード詳細:メルマガバックナンバー「訪問者」
このような誤った情報に振り回されないために重要なことが本革シートに対する理解を深めることです。
前項でもお伝えしたように自動車用レザーについて知っていれば、そもそも塗膜(樹脂)の上に何を塗っても意味がない、とすぐに判断することができます。
本革シートの正しいお手入れ方法
では普段のお手入れはどうしたらいいのでしょうか?
答えは、硬く絞った濡れタオルやウエスなどで優しく拭いてほこりをとってください。日常のお手入れはこれだけで十分です。
もし革が汚れてしまった場合は洗面器やバケツ2個を用意していただき、両方にお湯を入れ片方に中性洗剤を少しだけ入れてよくかき混ぜます。
次に柔らかいウエスを中性洗剤入りのバケツに入れ、良く馴染ませます。その後、洗剤付きウエスをしっかりと絞って、汚れた部分を優しくこすります。ゴシゴシこすらないようご注意ください。
そしてお湯のみのバケツに新しいウエスを入れて浸したあとに、先程こすった洗剤部分をしっかり絞ったウエスで、優しく拭き上げます。
それでも汚れが落ちない場合は、当店の内装クリーニングをご検討ください。
まとめ
最後にまとめると、本革シートには「柔軟性」と「耐久性」が求められるため、製造過程で塗料によって革の銀面は塗膜(樹脂)になります。
そして塗膜(樹脂)はクリームやオイルが革へ浸透を防ぐ壁となります。本革シートに保湿も不要です。
むしろ保護剤や艶出し剤に含まれる油分は紫外線や熱で酸化し、時間が経つと塗膜(樹脂)に、ひび割れ引き起こしたり、カビが生えたりするので絶対に塗らないようにしてください。
本革シートのお手入れ方法は硬く絞った濡れタオルやウエスなどで優しく拭いて埃をとってあげてください。日常のお手入れはこれだけで十分です。
またステアリング、シフトノブがテカリ(手垢の汚れ)が気になる場合はクリーニング後にグローブを付けて運転することもお勧め致します。
本革は非常にデリケートだと思われがちですが、私達が触れている部分は塗膜(樹脂)です。
新車のような艶消し感と質感を維持できるかどうかはメンテナンス次第であり、時にはレザーシートコーティングが必要な場合もあります。
なお、本革シートをきれいなまま長期間維持したい方にはコーティングがおすすめです。専用のコーティング剤を丁寧に塗布していくことで擦れ、汚れから守ります。当店のレザーコーティングは乗る頻度や走行距離にもよりますが、効果は2年持続しますのでご検討ください。
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